オーディオみじんこ

わが愛しのオーディオアクセサリー
電源ボックスSaturnianMoonsの製作
その1:概要と経緯

【概要】

私は長岡式オーディオラックを積み上げて、そこに数台の機器を設置している。そして、このオーディオラックの最下段には電源ボックスが仕込まれている。一昨年のこと、その電源ボックスを作り変えた。

これは4mm厚ステンレス板をプレートに用いた電源ボックス。従来のWN1318×3個付きアルミプレートを取り外し、このステンレスプレートを取り付けた。今回はUL規格コンセントが搭載できるよう、プレートを切抜いた。ステンレスプレートとは言っても、取り付け部は木製なので、このラック内臓電源ボックスは金属と木のハイブリッド構成ということになる。ステンレスプレートの大きさは100mm×400mm×4mm。UL規格コンセントが3つ搭載できるようになっている。したがって、電源供給口は6個口ある。必要十分な個口数だ。UL規格コンセント搭載ステンレスプレートに交換したことで、みじんこオーディオシステムは大幅に音質向上した。これはステンレス自体の剛性の高さに起因しているところもあるが、プレートの交換に伴うUL規格コンセントの導入が影響大。
これを独立型の6個口電源ボックスにしたのが、ここで紹介する電源ボックスなのだ。ラック内蔵電源ボックスのステンレスプレート製作記事を見た方々から、これを独立型にしたものを欲しいと言う声が相次いだ。それに応えるべく複数個製作することにしたのだ。せっかく作るのであれば、なにか実験をやりたい。同じモノを幾つも作るのは面白くないのだ。であれば、内部配線の違い・IECインレットの違い・配線方法の違い・振動処理の違いによる実験をおこなってみよう、というのが今回の電源ボックス複数生産の主旨である。

材料の都合から、今回は12台生産した。この電源ボックス、製造にかなりのコストと労力が掛かっているため、12台くらい作るのが限界だ。一番苦労したのはステンレス板の加工だ。コンセント部分のくり貫き加工はレーザーカット業者に委託したので、精度は抜群で全く問題なかった。ステンレスプレートに関して、私自身でおこなったのはネジ穴や表面の研磨作業だ。これがなかなかに大変だった。ステンレスは硬度が高いため、研磨作業も一筋縄ではいかない。しかも同じ板が12枚もある。相当な苦労の挙句、12枚分の加工を終え、さらにケース部分の組み立て作業、内部配線作業、振動対策を施して完成した。内部配線作業にも様々な労苦があった。12台の電源ボックスはいわば12つ子。それぞれ微妙に仕様が違うながらも、同じ時に生み出されたと言う事柄を示したいので、12台それぞれに土星の衛星名を割り振ることにした。よって、これらステンレスプレート電源ボックスをSaturnian Moons=土星の衛星と呼ぶことにする。

【経緯その1:JIS規格コンセント対応アルミプレート製ラック内臓電源ボックスの製作】

ちょっと時系列をさかのぼって、この電源ボックスを作るに至った経緯を述べよう。電源ボックスの製作記事を早くご覧になられたい方は、ここは飛ばし読みいただいて結構。

今から3年前の2002年夏、みじんこオーディオシステムが形となった。3ヶ月間の制作期間を要し、メインスピーカーPA-2と長岡式積み上げラックが完成したのだ。その後も、このオーディオシステムは微妙な変更を重ねているが、基本的なスタイルに変わりは無い。私のオーディオラックの特徴はラック最下段にある。ラック最下段は高さ12cm、奥行き45cm、幅60cmなのだが、ここには移動用のキャスターが四隅に付いている。前面は開閉式の蓋になっており、そこを開けると内幅36cm、内高6cm、奥行き35cmほどの空間が設けられている。ここにはスーパーアースリンクやコピーガードキャンセラーなどを収納している。背面は電源ボックスになっており、ここからラック内の各機器へ電力を分配している。

オーディオを趣とする人であれば、電源供給の重要性については承知のことと思う。あえて述べておくとすれば、電源供給系の質はオーディオ装置の再生音へ多大なる影響を与えている。電源ボックスもしかり。ただの電力分配器ではなく、これ自体立派なコンポーネントなのだ。電源をおろそかにしてオーディオを語ること無かれである。

さて、ラック内臓電源ボックスの製作にあたっては幾つかの留意点があった。まず、オーディオ的に堪えうる質を有すること。定評のあるコンセントを使用し、これを剛性の高いプレートに取り付けるのである。内部配線もおろそかに出来ないので、それなりの線材を使用する。次に、使い勝手の面である。機器の数からすると、ラック1列に対し電源供給口は6つ必要だった。6個口となると、コンセントは3つ必要だ。オーディオラックの最下段のコンセント取り付け部分は、幅が10cm長さが40cmという横長形状になっている。このような部分にコンセントを3つ取り付けるとなると、コンセントはおのずと縦列に配置することになる。

その時に問題となるのがコンセントプレートだ。幅が10cm長さが40cmという横長のコンセントプレートは市販品には存在せず、自作するしかない。複数個のコンセントプレートの市販品というと、一般には上の写真のようなコンセントを2個並列配置した4個口タイプのものが流通している。ULコンセントを3つ並列配置で搭載できる6個口型のプレートも輸入されているが、一般には出回っていない。JIS規格コンセントプレートなら4個並列固定できるものがオヤイデ電気で入手できるが、やはり私のラック最下段には利用できない。これらの市販コンセントプレートはコンセントを並列配置するため、プレートを上から見ると正方形に近い幅広形状をしている。これではプレートの幅がありすぎて、私のラック最下段に取り付けられない。よって、私のラックに搭載するコンセントプレートは自作せざるを得なかったのである。

コンセントプレートはその名の通り、コンセントとコンセントケースとの間の隙間をカバーするプレート。つまるところ、コンセントの保護カバーである。コンセントカバーやレセプタクルカバーとも呼ばれる。皆さんのご自宅のコンセントにも必ずコンセントカバーが付けられている。一般的にはコンセントカバーと呼ぶことが多い。私のラック内臓電源ボックスコンセントカバーは随分と大きいので、コンセントプレートという言い方の方が似合っている。なお、ケースにコンセントを固定できさえすれば、コンセントプレートがなくても電力分配は可能である。音質的には、むしろコンセントプレートが無い方が有利だという説もある。ただ、コンセントプレートがないと、内部に埃が入ったりして安全上問題がある。誤って隙間に手を入れたら感電する恐れもある。だから、一般的にはコンセントプレートを取り付けたほうが安全である。私のラック内臓電源ボックスの場合、コンセントをコンセントプレートに固定して、それをラック最下段に固定する方式を取るつもりだったので、コンセントプレートは必須だったのである。

私のラックにぴったり取り付けられる縦長コンセントプレートには5mm厚のアルミ板を用いることにした。ただ、5mm厚ともなるとくり貫きが大変。手作業でUL規格のような曲線と直線が入り混じった穴を切り抜くのは難しい。ボール盤と金ヤスリを使って丹念にカットしていけばやれなくもないのだが、完璧な精度でおこなうのは不可能に近い。もし、くり貫きの位置が少しでもずれてしまうと、UL規格コンセントが取り付けられなくなってしまう。となると、直線の構成でくり貫く方がやりやすい。JIS規格コンセントであれば直線の構成で長方形状にくり貫けばいいから、なんとかなるだろう。とはいっても、5mm厚もの金属くり貫き加工を私の手持ちの工具でおこなうのは難しい。それなりの工具を所有する専門業者に委託するほうがいい。そういうわけで、材料の調達とくり貫き加工を東急ハンズ新宿店に委託した。

加工を委託する際、ハンズの方からは、高精度のカットは期待しないで下さいと念を押されていた。だから、加工精度に関しては、さほど期待していなかった。待つこと数日。くり貫きカットされたコンセントプレートを受け取りに行き、その場で確認させてもらったところ、確かに高精度とは言いがたかった。東急ハンズにレーザーカット装置やNC旋盤はないので、くり貫き加工は電動糸鋸による手作業でおこなっているのだ。だから、完璧な直線切抜きが出来ておらず、切抜き穴が歪んでいる。文句を言っても仕方ない。コンセントプレートを持ち帰ってコンセントを嵌めてみる。うううっ、入らない。仕方なく、コンセントが入るように穴をヤスリで整形した。そんなこんなの苦労の末、なんとかオーディオラック内蔵型5mm厚アルミプレート電源ボックスは完成した。この時、思ったのだ。今度、金属のくり貫きをやる時があれば、高精度なカットができる専門業者に依頼しようと。

経緯その2:UL規格コンセント対応ステンレスプレート製ラック内臓電源ボックスの製作】

JIS規格コンセント(WN1318×3個)を搭載したオーディオラック内臓電源ボックスが完成して1年余り。松下のWN1318が悪いと言うわけではないのだが、音質的に魅力的なコンセントとなると、やはりUL規格コンセントを選びたくなる。仕方なく、外付け型のULコンセント搭載型電源ボックスを製作し、そこからピュアオーディオ機器に電源供給したりしていた。ただ、せっかくラック内蔵型というアイデアを実現できたのに、そこの電源供給ポートを使わないのではもったいない。であれば、ラック内臓電源ボックスをUL規格コンセントが搭載できるタイプに作り直すしかない。そんなわけで、ラック内蔵電源ボックス専用のUL規格コンセント対応コンセントプレートを新規製作することにした。

ここで問題がひとつ。UL規格コンセントを取り付ける穴は円形の両端を切り取ったような形状をしており、そのような形状の高精度カットは手作業では不可能に近い。なお、メーカー品の電源ボックスはNC旋盤と呼ばれる高額な装置を使ってくり貫き加工をおこなっている。自前でできるとすればせいぜい真円のくり貫き加工だ。真円ならボール盤にホールソーと呼ばれる工具を取り付けて、自前でくり貫き加工できるのだが、ULコンセントをはめ込む穴はそうはいかない。TMDという小規模なオーディオアクセサリーメーカーは真円にくり貫いた金属板にULコンセントを固定している。たぶん、ホールソーを使って穴あけ加工されているのだろう。真円を隣接して2つ開けてやればUL規格コンセントの固定は可能である。ただ、これはやりたくない。変な話、真円にULコンセントを固定した場合、円の両端に隙間が生じるので、見栄えが悪いのだ。

なにか良い方法はないかと模索していたのだが、解決策は身近にあった。私の自宅から歩いて数分のところに金属のレーザー加工業者があるのだ。実は、この業者があったからこそ、ULコンセント対応プレートの製作を思い立ったのだ。というわけで、レーザー加工業者に早速交渉。業者の方いわく、少数ロットでもカットしてくれるとのこと。これで金属プレートのくり貫き加工はOKだ。カットできる素材はアルミ合金、ステンレス、真鍮、銅、鉄、アクリルなどなど。これらの素材もレーザーカット業者が多種類在庫されているので、自前で調達する必要はない。

検討の結果、4mm厚のステンレス板を用いることにした。依頼の直前まで4mm厚の真鍮板にしようかと迷ったのだが、それはまたの機会にしておくことにした。ステンレスより加工が高くつくという理由と、素材自体を在庫していないので、材料調達に時間が掛かると言われたためだ。また、真鍮はレーザーカットし難いらしく、業者が難色を示したということもある。

ステンレスを選んだ理由は複数ある。まず、比重と硬度が高いので音質的に有利と見込んだためだ。ステンレス自体は叩けば鳴くのだが、4mm厚ともなると鳴きはほとんど感じない。もうひとつ、ステンレスを用いたメーカー製電源ボックスが少ないということも挙げられる。メーカーが手を出しにくい素材にあえて挑戦したかったのだ。メーカーが電源ボックスにステンレスを使用しない理由は加工しづらいからと思われる。ステンレス板素材自体は高額ではないが、硬度が高いので切削加工が難しい。ステンレスを使用した電源ボックスと言えば、リラクシンくらいだ。オヤイデ電気もJISコンセント3個搭載型を発売しているが、これはケースのみの販売だ。ステンレスを選んだ理由は他にもある。丁寧に研磨すると表面が鏡面状に輝くのだ。オーディオにとって見た目は重要である。ステンレス自体が錆び難いので、長期にわたって美観が保たれると言う利点もある。まぁ、ステンレスの語源自体が「stainless=錆無し」というわけだし。

これが私の作図したラック内蔵型ステンレスプレートのカット図面だ。この図面を元に、レーザーカット業者がCADによるカット図面を作成。このCADデータを元に、コンピューター制御でレーザーカットする。問題はコストで、このプレートくらいのレーザーカットだと1万/枚程度。まぁ、最強電源ボックスを作るためなら、このくらいの出費は惜しまない。

実際の製作はわが愛しのオーディオアクセサリー電源ボックスをご参照いただくとして、このような経緯を経て、オーディオラック内臓電源ボックスはステンレスプレートバージョンに換装された。音質の改善効果は明らかだった。プレートの交換とともにJISコンセントからULコンセントに乗り換えたという効果も大きいのだが、極厚ステンレスが音質向上に大きく作用していると実感した。解像度が上がり、全体的にエネルギッシュになったのである。オヤイデ電気の社長さんいわく、ステンレスは高域にピークが乗ると指摘されていたが、実際にはそのような癖を感じることはなかった。極厚ステンレスだからかもしれない。

このステンレスプレート使用ラック内蔵電源ボックスが成功した時、ふと思ったことがある。これを通常の電源ボックスに仕立てたら、かなりいい線いくのではないかと。ステンレスのカット図面は内蔵型のものを少し修正してやればよい。ケース部分を新たに作って、そこにステンレスプレートを被せてやれば、立派な電源ボックスに仕立てられるだろう。そんなことを漠然と考えていた。

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