オーディオみじんこ
わが愛しのオーディオアクセサリー
電源ボックスSaturnianMoonsの製作
その3:音質比較実験用の材料

ここでは電源ボックスに使用する素材の中で、音質比較実験を予定しているIECインレット/内部配線材/配線方式についてご説明しよう。

【音質比較実験に用いるIECインレット】

まず、IECインレットについて。今回、8種のIECインレットを比較試聴実験することにした。秋葉原のパーツ屋を駆け巡って入手してきた。なお、IECインレットは3Pインレットとか3P型ACインレットという言い方もする。

オヤイデとフルテックはオーディオ用としてオーディオ店で売られているが、その他はパーツ店で売られている。いずれの製品も、耐電規格は125V-15Aと同一。
メーカー 型番 特徴 価格
ニコオン NC174-10N-C ニッケルメッキ 100
ニコオン NC174-10N-A-F6.35 NC174-10N-Cの内部電極幅広バージョン 180
オヤイデ IEC320INLET ニコオンNC174N-Cのロジウムメッキバージョン 710
平河ヒューテック CM-11 ニッケルメッキ 200
平河ヒューテック CM-11金メッキ CM-11の金メッキバージョン 300
フルテック INLET-G 金メッキ 510
フルテック INLET-R ロジウムメッキ 850
山手電研 AP300-2B-1-N ニッケルメッキ 300

8台分の電源ボックスにこれらインレットを組み込んでいく。インレット以外の仕様は全く同じにして組み立てる。よって、これら8台の電源ボックスを比較試聴していけば、IECインレットの違いによる音質変化を確認できるだろう。もっと広範囲の製品をテストするのであれば、イナルウェイ、フルテックのネジ留めタイプやPADのIECインレット、さらにはロビン企画が輸入し始めたIeGO社の5N銀ブレードIECインレットも比較対象に加えたかった。しかし、お金が掛かりすぎるので諦めた。

左上はニコオンNC174-10N-C。電極にはニッケルメッキ。\150/ケ。ケースは耐熱性樹脂で、グラスファイバーも混入されている。見た目は素っ気無いが、作業してみるとハンダの熱に強いため作業が安心して行える。実際、ケースはかなり頑丈で硬い。NC174-10N-Cは秋葉原のパーツ屋で容易に見つかる。私は秋葉原ラジオデパート3Fの門田無線電機で購入した。ニコオン(NICOON)はたしか関西の会社だったかなぁ。右はオヤイデIEC320 INLET。¥710/ケ。オヤイデ電気の製品だが、実はニコオンNC174-10N-Cが原形になっている。オヤイデIEC320INLETはこれにロジウムメッキを掛けたもの。メッキの違いで価格は8倍!ご覧の通り、両者はメッキ手法が違うだけで、外見上は見分けが付かない。
電極の様子。左上がニコオン。右上はオヤイデ。ニコオンNC174-10N-Cの方がメッキに艶がある。オヤイデIEC320 INLETは少しざらついている。
左上はニコオンNC174-10N-Cの内部電極。左上がニコオンNC174、右上がオヤイデIEC320 INLET。やはりニコオンの方が電極に艶がある。オヤイデはくすんでいる。なお、両者を見分けられるよう、私はオヤイデの内部電極に赤い印をつけた。
こちらはニコオンNC174-10N-A-F6.35 。NC174-10N-Cの幅広電極タイプだ。内部電極の幅は6mm弱ある。これも秋葉原のパーツ屋でよく売られている。¥189/ケ。 秋葉原ラジオデパート3階の門田無線電機にて購入。参考までに、写真右の表面の刻印の極性表示について。左のLはliveの略で、電流が流れるの意味。すなわちLの印字された側の電極がホット側の電極である。一方、右の電極の脇に印字されたNはneutralの略で、中性線を意味し、コールド側の電極である。真ん中の電極はグランドだが、特に刻印はされていない。他の刻印で、例えば、郵便マークの上にもう一本横棒が足したようなマーク(ニュートラル電極とグランド電極の間にある)は、電気用品取締法の電取マーク。Dに丸がされた刻印は、ヨーロッパの家電製品の安全規格の一種の認証マーク。他のマークは知らんが、どこかの国の電気用品に関する認証マークだろう。
電極の幅は6mm弱ある。一般に入手できるIECインレットとしては最も幅が広いと思われる。この電極を見た時、これは使える!と思った。電極はニッケルメッキも綺麗だ。
右上は平河ヒューテックのCM-11。ニッケルメッキされている。¥200/ケ。秋葉原ラジオデパート2F鈴蘭堂で購入した。後日、秋葉原ラジオセンターのどこかの店で\100/ケで売っていた。こういうパーツの値付けは店毎にかなりばらつきがある。左上は平河ヒューテックCM-11の金メッキバージョン。¥300/ケ。オヤイデ電気で購入。CM-11金メッキはオヤイデ電機以外で見たことがない。
CM-11の内部電極。ご覧の通り両者とも全く同じケースで、メッキが違うだけだ。さて、音は違うのだろうか。メッキはとても綺麗だ。CM-11のケースはニコオンよりは軟らかいが、フルテックよりは硬い。
写真の写りが悪くて分かりにくいが、電極にはしっかりメッキがなされており、光沢がある。
左上はフルテックINLET-Gだ。¥500/ケ。電極が金メッキされている。右上はフルテックINLET-R。電極にロジウムメッキされている。実売¥700。購入はオヤイデ電気だが、たいがいどこのオーディオ店でも売られている。ケースはやや軟らかめ。熱にはあまり強くない。私はかつてこのインレットへの配線作業中、ハンダの熱でケースが融解し、電極を歪ませてしまったことがある。その失敗を教訓に、今回はちゃんと放熱クリップを使わないとね。
フルテックINLET-GとINLET-Rの電極アップ。メッキはまあまあ綺麗だ。
フルテックINLET-GとINLET-Rの電極アップ。電極の幅は4mmと、一般的なインレットよりやや大きめ。表面の刻印のひとつ、URという文字をひっくりかえしたようなマークは、米国のUL規格の一種。
山手電研AP300-2B-1-N。ニッケルメッキと思われる。電極のメッキはこれが一番艶々していて、正直、音質も良いのではないだろうかと期待していた。ケースは軟らかい。\300/ケ。秋葉原ラジオセンターのパーツ店で購入したが、店名を忘れてしまった。写真右の刻印について、前述の電取マークなどの他に、ULマーク(米国発祥の製品の安全性を保証するマーク)、CSAマーク(カナダ発祥の製品の安全性を保証するマーク)が確認出来る。かくも色々な安全認証マークがあるものだ。IECあたりに統一されればいいと思うのだが。
AP300-2B-1-Nは内部配線のハンダ付け作業時にハンダの熱でケースが溶けてしまった。こうなったら、電極が歪んでしまい使い物にならない。他のインレットと同様、放熱クリップを使用して慎重にハンダ付けをおこなったのだが、山手だけハンダの熱に耐えられなかったのだ。この一例だけでAP300-2B-1-Nが悪いとは決めつけられないが。もう一度買い直してやってもいいのだが、そんなことにかまってられないほど作業は沢山ある。だから、AP300-2B-1-Nは比較試聴候補から外すことにした。AP300-2B-1-Nはハンダの熱に弱いということが分かっただけでも収穫。

今回選んだインレットは外見上、極端な違いは無いが、樹脂部分の質感に違いが見られる。フルテックとヤマテは柔らかい。ニコオンとオヤイデロジウムは耐熱性樹脂でかなり硬質。平河はその中間。メッキ手法はニッケルメッキ/金メッキ/ロジウムメッキの3種。

【音質比較実験に用いる内部配線材】

電源ボックスの内部配線は以外と重要なポイントだ。配線材は単線を使うか撚り線を使うかに大別される。狭いケース内に配線する場合、撚線が使いやすい。ただ、良質な撚り線となるとそれなりのコストが掛かる。単線の場合、良質な線材が安価に入手できる。ただし、単線は撚り線より柔軟性が乏しいため、ケース内の配線には慎重を要する。福田雅光先生が季刊オーディオアクセサリー誌上で取り上げて以来、一大ブームとなったVVF、及びEM-EEFがその一例だ。市販品10万クラスの電源ケーブルでもこれら単線に勝るものはなかなかないとおっしゃられていた。福田先生がこれら単線ケーブルを絶賛して以降、何件かのオーディオ店でも扱い始めたほどだ。これが売れても、単価が安いのでオーディオ店は嬉しくないと思うのだが。

VVFやEM-EEFは本来、電工用屋内配線に用いられる電力ケーブルなのだが、オーディオ用としても抜群の性能を発揮する。古くは故長岡鉄男先生や江川三郎先生も単線の優位性を述べられている。私もVVFやEM-EEFを良く使うのだが、極めて高純度でストレートな音色、オーディオ専用線と比べても遜色のない解像度の高い音質を有する。これら単線ケーブルはいわば、針金みたいなものなので「しなる」ということが皆無であり、抜き差し頻度の多い電源ケーブルなどに使用するには一考を要する。ただ、電源ボックスの内部配線や屋内配線のように、組み込んだ後は触ることのない箇所には比較的使いやすい。

内部配線については単線を3種類用意した。内部配線の比較試聴実験をおこなうためである。12台のうち10台には東日京三のEM-EEF2.0を使用している。オヤイデ電気で扱っているのは2芯タイプで価格は\250/m。EM-EEFはエコシースといわれる非塩素系のシースを使用。具体的にはポリエチレンを絶縁体と外装シースに使用している。ケーブルに多用されているポリ塩化ビニール(PVC)は燃やすとダイオキシンを発生するが、EM-EEFに使われているポリエチレンは燃やしてもダイオキシンを発生しない。EM-EEFは電気特性も優れており、VVFケーブルより許容電流が1.3倍向上、絶縁抵抗は50倍も向上しているらしい。最近、この手のエコケーブルが各メーカーから発売されはじめた。秋葉原で入手しやすいEM-EEFは品川電線製だ。私が知っている限りでは、秋葉原で東日京三のEM-EEFを常時在庫して小売販売してくれるのはオヤイデ電気だけ。最も、オヤイデ電気に東日京三EM-EEFを置くようになったのは、福田先生が雑誌に紹介した後の事だ。福田先生はどこから東日京三EM-EEFを見つけてきたのだろう。
品川電線のVVF2.0を内部配線に使用した電源ボックスを1台だけ製作する。VVF2.0はオヤイデ電気にて\110/m。秋葉原ラジオストアの九州電気に行けばもう少し安く売っている。品川電線VVF2.0は、福田先生がVVFの中で最も音質が良いとAA誌上で絶賛された。その記事を見て、VVFを買い求めるマニアが多数いたようだ。私もその一人だが。福田先生はその後、東日京三のEM-EEF2.0を絶賛されたため、人気はそちらに移行してしまった。それでも、品川電線VVFはその入手のしやすさとコストパフォーマンスの高さが相まって、現在でもオーディオマニアの間で広く利用されている。
もう1台にはオヤイデ電気が発売しているPCOCC1.6を使用。古河電工製だ。\1,000/5m巻。絶縁されていない裸線状態で売られている。よって、絶縁被服は別途必要。PCOCCはPure Copper by Ohno Continuous Castingprocessの略で、大野博士が確立された銅の鋳造引き出し方法を指す。そう、PCOCCのOは大野博士のOなのだ。日本語訳は「単結晶状高純度無酸素銅」と言われる。PCOCCで作られた銅線をPCOCC線と呼ぶ。PCOCCも無酸素銅なのでOFCの一種と言える。純度的には4N程度と思われるが詳細は不明。PCOCCはかなり硬い。この硬さが単結晶銅の特徴らしい。同じ銅なのに鋳造引き出し方法が違うだけで、こんなにも性質が変わるのかとびっくりする。PCOCCの撚り線はハーモニクスやオーディオテクニカが自社ケーブルに好んで使っている。台湾のネオテックや米国のMITなどもOCC線と称した線材を使っている。要はPCOCC線のことだ。さて、これら3種の単線がいかなる音質の違いを聴かせるか、興味深い実験になりそうだ。 欲を言えば、ビンテージ単線やアコリバ6N楕円単線、純銀線、オーグライン、ドイツ軟銅線、撚り線などをも加えて実験したかったのだが、かなりコストが掛かる実験になるので、今回は省略。

【内部配線方法の違いによる音質比較実験概要】

今回製作する12台のうち11台は、音質優先のためインレットの内部電極から3つのコンセントへ個別分岐させることにしている。しかし、1台だけはインレット→コンセント→コンセント→コンセントで配線してみることにする。下図をご覧いただければ分かりやすい。

インレットの内部電極から各コンセントへ個別に配線したほうが、コンセントそれぞれの接点は最小で済み、コンセント同士の干渉も少ないので、音質的に有利だと言われている。この方式のデメリットは工作上の難易度が高いこと。インレットの内部電極はかなり小さいので、この電極に3本もの配線材を綺麗にハンダ付けするのは至難の業なのだ。実際、私もこの分岐配線作業で相当苦労した。そのような作業上の難しさもあってか、メーカー製電源ボックスの多くは給電ラインの橋渡し方法を採用している。つまり、1つ目のコンセントを経由して2つ目のコンセントに配線、さらに2つ目のコンセントから3つ目のコンセントに配線するという方法である。この方法は配線作業がしやすいことと、配線材が少なくて済むというメリットがある。ただし、2つ目以降のコンセントへの給電ラインは手前のコンセントを経由して流れてくるため、接点が増え、音質が低下しがちだと考えられる。これが本当にそうなのか、試してみようと言うのである。
その3
音質比較実験用の材料
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