オーディオみじんこ
わが愛しのオーディオアクセサリー
電源ボックスSaturnian Moonsの製作
その4:プレート加工とケース組み立て

ここからは実際の製作過程を紹介する。ケースの組み立てとプレートの加工である。
内部配線作業は次項に掲載する。

【ケース部分の組立塗装作業】

まず、ケース部分の組立作業について。木材は15mm厚フィンランドバーチ材を使用。フィンランドバーチ合板はその名の通りフィンランド産の樺材を使った合板。究極の音響木材として高級スピーカーや楽器などに採用されている。バーチ材は一般には入手が難しいのだが、都内には小売しているお店もある。東急ハンズ渋谷店と新木場の木材小売店もくもくだ。今回お世話になったのはもくもく。カットと配送ももくもくに委託した。もくもくには、常時フィンランドバーチの在庫がある。大きさは2,440×1,220とその半分の1,220×1,220を取り揃えている。1,220×1,220を1枚使い、18台分の板材を切り出してもらう。これがカット済み板材。今回製作する電源ボックスは12台だが、実際には18台分用意した。1,220×1,220で板取り図を作成すると、ちょうど18台分切り出せるのだ。

上写真はもくもくから届いたカット済みバーチ材。ご覧の通り、フィンランドバーチの断面はプライ数が多くて、緻密で綺麗だ。ちなみに、合板の英訳はplywoodで、ply=プライとは積層合板を構成する単板を指す。5プライといえば、5枚の単版を積層した合板、7プライなら単板が7枚積層された合板ということになる。一概には言えないが、同じ板厚なら、プライ数が多い方が密度も高く、良質なことが多い。従って、音響的にも有利となる。15mm厚の場合、一般的なラワン合板は5プライ、シナ合板は表層の極薄シナプライも含めて7プライが一般的だが、15mm厚フィンランドバーチは13プライ。なお、フィンランドバーチ材の表面には全域にわたり細かい傷がある。木目と90度違えて傷があるので少々気になる。これはバーチ材の製造時に平面性を出すために電動ヤスリで切削した痕だと思われるが、詳細は不明。ま、このヤスリ痕がバーチ材の証しというべきか。
ケースの板材は5ピースで構成されている。ケース1台あたり、64×45を2枚と64×365を3枚使用する。部材の種類をシンプルにするため、底板と側板は同じ寸法にしてある。
板のカット精度がきちんと出ているか仮組みしてみたところ、問題発生。設計は完璧だったが、カット精度が甘かった。64×45で頼んでいたのに、64×44.5になっていたのだ。これでは、プレートを取り付けた際、ケースとの間に0.5mmの隙間が生じてしまう。もう一点、64×365が64×365.8になっていた。あー、困ったな−。もくもくを始めとしてほとんどの材木カットサービスでは1mm以下の精度は保証できないことになっているので仕方ないのだが、精密な小物の組み立てにおいて0.5mmの誤差はけっこう大きい。ま、致命的な誤差ではないので簡単に補正できるのだが。どうしたかというと、54.5mmに0.5mmのシナテープを張って55.0mmに補正したのだ。64×365.8の方は削るのが難しいのでそのまま組むことにした。ステンレスプレートと長さ部分で0.8mmのズレが生じてしまうのだが、目をつぶるしかない。
次に、IECインレットを取り付ける穴の切り欠きをおこなう。インレット取り付け板をコの字型に切り抜くのだ。まず、切り抜きする部分を鉛筆でけがく。次に、けがきに沿ってガイド付きの手引鋸を使い、垂直にカットを入れる。さらに、電動糸鋸を使って水平方向をカット。カット断面をやすりで整えて切抜きは終了。
これが切り抜いた板材。次は板材同士を木工ボンドで組み立てていく。まず、写真右上のように、小さい方の側面材を底板に接着する。乾いたら、さらに長い側板を接着する。
なお、木工ボンドにはタイトボンドという速乾性強力ボンドを使用した。外国製で、クリーム色をしている。普通の速乾ボンドは乾きは早いが強度はいまいちなことがある。タイトボンドは速乾性でありながら接着強度も高い。タイトボンドは東急ハンズ各店で購入できる。 ボンドが完全に乾いたら、紙やすりで表面を整える。これにてケースの組み立ては完了。なお、板材の木口、つまりカット断面は素のままにしてある。シナテープによる木口処理をしてもよいのだが、フィンランドバーチの木口はプライが緻密で美しいため、わざわざ隠す必要はないと判断した。
塗装にはサンデーペイントのエコウッドカラーステインを使用。色はブラック/ブルー/グリーン/ウォルナット/マホガニー/チーク/ホワイト/艶有りクリアー/艶消しクリアーがある。ケースの塗装にはブラックを使用している。エコウッドカラーステインは1L缶で実売\2,887と少々高めのステインだが、発色が良いので気に入っている。購入先は東急ハンズ新宿店。渋谷店には置いてない。塗料もしかりだが、ステインもメーカーによって使用感が様々。ステインとは防錆/耐蝕性を有する木部着色剤のこと。塗料と違って、木に浸透していくので、木目を生かした着色仕上げができる。自分が表現したいと思うような色と質感を出せるまで、私は色々なステインを試してきた。現在はエコウッドがお気に入りのステインだ。エコウッドカラーステインはヒバ油・密鑞・ラック鑞といった天然系溶剤を使用している。油性特有のシンナー臭がないので、近所に気兼ねせず使うことができる。効果や使用法は油性ステインと同様で、屋内外に使用できる。欠点はオイルステインに比べて乾燥が遅いこと。エコウッドカラーステインの説明書きには指触乾燥に6〜7時間、半硬化乾燥に約20時間とあり、実際そのくらいかかる。重ね塗りには塗布から6時間程度待つ必要がある。使いにくい点がもう一つ。手に付いたら落としにくいことだ。オイルステインなら、油性うすめ液を使えば簡単綺麗に落とせる。しかし、エコウッドカラーステインは油性うすめ液で落とせるものの、指の隙間などに染み込んだものまではなかなか取れにくい。手が汚れるのを心配されるなら、ゴム手袋をしたほうがいい。なお、エコウッドには専用うすめ液が存在するのだが、私は原液のまま塗布するので、専用うすめ液を使ったことは無い。
ケース内部には電磁波吸収効果のある特殊な塗料を塗布することにした。この塗料は炭の力という商品名で、炭とトルマリンを主成分とした水性塗料だ。薄く塗布しても効果があるらしい。塗料自体はねっちょりしているが、手で触ってみるとザラッとした炭の微粒子がたくさん入っていることが分かる。乾くとザラッとした表面になる。塗布して皮膜からはマイナスイオンも発生するらしい。炭の力はエコパウダーという埼玉の会社が作っている。空気中の有害物質を吸着させるため、住宅の壁などに使われることが多いらしいのだが、私はこれをオーディオに活用してみた。実は、私のメインスピーカーPA-2のエンクロージュア内部にもこれが塗ってある。「炭の力」は住宅用途がメインのため、通常は18kgのペール缶でしか手に入らない。しかも値段は9万円!私はこれを特殊なルートで小分け販売してもらった。一時期、500mlボトルが東急ハンズ新宿店で売られていたことがあるが、現在は置いていないし、メーカーでもこのサイズでは供給していない。
塗装が済んだ状態のケース。思惑通りに塗装出来た。外側はエコウッドカラーステインのブラックを3回塗り、内側は炭の力を2回塗りしている。

【プレートの穴開け及び研摩作業】

ここからはステンレスプレートの加工を紹介する。

左上はレーザー加工業者でカットしてもらったステンレスプレート。表面保護用の青いシートが貼ってある。ULコンセント埋め込み用の6箇所のくり貫きはレーザーカットだが、ネジの取り付け穴は自分で開ける。ネジ穴個所はレーザーでポンチを打ってもらっているので、それに沿って穴を開けていく。右上はボール盤を使って穴を開けた後。ステンレスは硬度があるので一般的な軟鉄用ドリル刃では穴を開けられない。したがって、ステンレスを打ち抜くことが出来るチタンコーティングの超硬ドリル刃を用いている。ネジ穴の個所は計15箇所/枚。12枚もあるのでなかなか大変な作業だ。φ3.5のネジを通すので、穴の径はφ4にしてある。穴の位置がずれると取り返しがつかないので、一箇所一箇所慎重に位置決めをしてから穴開けする。

ネジ穴を開けた後、ネジの開口部には皿ネジ用のテーパー加工を施す。面取りビットをボール盤に装着し、開口部をすり鉢状に切削するのだ。まず、勘と経験を頼りにテーパー切削する。一通りテーパーを付けたら、今度は1穴1穴毎に皿ネジをはめ込んで、テーパーの深さを確認。再度、面取りビットにてテーパーの深さを追い込んでいく。

次に、切断面の研磨に入る。レーザーカットはNC旋盤と違い、切断面が綺麗とは言いがたい。レーザーが貫通した方向に焼き切った筋が入り、少し焦げた感じになる。今回の電源ボックスは断面が表に見える状態で固定するため、切断面を綺麗に研磨してやる方がいい。磨くといっても、相手はステンレス。硬い金属なので一筋縄では行かない。手でシコシコ磨いても断面は一向に綺麗にならない。だから、電動サンダーポリッシャーを使って研磨することにした。ポリッシャーで磨くことしばらく、なかなか筋が消えない。サンダーによる研磨は早々に諦め、ディスクグラインダーで荒削りすることにする。
ディスクグラインダーは強力だ。火花を飛び散らせながら、板の断面が研磨されてゆく。あっという間に断面の筋が削り取れた。写真右上を見て欲しい。下が研磨前の断面。上に重ねているのがグラインダー処理後の板。焦げと荒れが取り除かれている。ただ、この状態ではまだ不十分なので、さらに人力で断面を研磨していく。ディスクグラインダーの切削能力は強力だが、騒音も凄まじい。ギャーンーキューンという切削音が鳴り響くので、とても近所迷惑だ。私は住宅密集地に住んでいるので、こういう作業は日中にしかおこなえない。オーディオマニアの場合、オーディオを鳴らしていて近所から苦情を受けるというのはありえる話だと思うのだが、私の場合、オーディオを鳴らす装置作りで騒音苦情がくる。
断面の荒削りが終わったら、次は表面の研磨だ。研磨にはサンダーポリッシャーを使う。左上は400番と1,200番のポリッシャー用フィニッシュペーパー。5枚入りで600円ほど。裏面がマジックテープ状になっており、ポリッシャーにマジックテープで固定する。400番で表面の傷やバリを削り取り、さらに1,200番で均す。これもかなり手間と時間の掛かる作業。表面とともに、ディスクサンダーで荒削りした板断面も研磨していく。400番と1,200番の間に、できれば600番あたりを掛けたかったのだが、600番のポリッシャー用ペーパーは店頭に置いてなかったので仕方ない。この行程だけで1枚あたり半時間は掛かっている。
鏡面仕上げにするにはさらに細かいペーパーで研磨する。2,000番の耐水ペーパーを木の板に画鋲で固定し、せっけん水で濡らしながらステンレス板を研磨していく。これも根気のいる作業だ。
仕上げはコンパウンドを使う。使ったのはステンレス専用コンパウンド。何がどう専用なのか詳細は不明だが、専用と明記されるとこの方がいいのかなと思ってしまう。研磨粒子が違うのだろうか。ま、とにかくこのコンパウンドを使ってプレート表面をひたすら研ぎまくる。12枚全て磨き終えた後、ステンレスプレートを抱きかかえてお風呂に入る。風呂でコンパウンドを洗い流すのだ。綺麗に洗うと残っている傷もよく分かる。細かい傷は仕方ないので諦めるが、目立つ傷が見つかれば、再度ポリッシャー研磨行程からやり直す。
これが研磨し終えたプレート。鏡面状態まで磨き込んだので、周りの景色が映り込んでいる。右上は表面と裏面の違い。裏面は見えないので研磨していない。
ネジ穴の状態。面取りの状態がよくわかる。プレート表面をよーく観察すると、取り去れていない傷が見受けられる。近づいて見ないと分からないくらいだが。硬質なSUS304を手作業で研磨するのは作業なので、ある程度の傷は納得するしかない。表面の研磨加工の精度については今後の課題としておこう。
その4
プレートとケース加工
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