オーディオみじんこ
D-37ES製作記
その3:塗装行程

2005.9.13公開

スピーカーエンクロージュアの組み立てが終わり、いよいよ塗装行程に入る。この辺りからがちょうど作業工程の折り返し地点になる。組み立てまでに要した時間は約30時間。作り慣れれば要領を得て、もっと時間短縮できるだろうが、私は業者ではないので同じスピーカーを何台も作るということはない。ただ、D-37ESに限って言えば、私自身も私用に作りたいと思っているので、もう1回作ることはあるかもしれない。

塗装が無ければ、ユニットを取り付けて完成!と相成るのだが、普通は塗装をするものだ。今回は依頼者の要望により、艶あり黒で仕上げることになった。つまり、ニスかそれに類するつや出し行程が必要である。艶無し仕上げは私の常套手段。アンティークな質感が気に入っていつも艶消し仕上げにしているのだが、艶ありは大変だから艶消しにしているというのもある。市販スピーカー並みの奇麗なつや出し塗装は、私のような素人環境では至難の業。ニス塗りというのは簡単そうに見えて、ムラなく奇麗に仕上げるには相当な技量が必要なのだ。それでもなんとかやらねばならない。市販品並みの艶にするには、専用の塗装室と、スプレーガン、コンプレッサー、そしてウレタン系ニスが必要だ。私の場合は埃の多い野外で、刷毛塗りや缶スプレーなどを駆使してつや出し塗装をせねばならない。たぶん、幾多の苦難があるだろうが、問題が生じればその都度対処していくしか無い。

奇麗なつや出し塗装の仕方については、色々調べたり、東急ハンズの店員さんに相談したりした。使用する塗料、及びその使い分けについてはあれこれ悩んだのだが、今回はオーソドックスな方法をとることにした。まず、水性ステインでエンクロージュアを着色。次いで、ニスを刷毛塗り。乾燥後に目の細かいサンドペーパーで研磨し、さらにニス塗り。乾燥後にペーパーで研磨し、さらにニス塗り。ムラなく奇麗に仕上がるまでこれを続けるのだ。私自身の好みとしては、半艶程度の渋めの艶にしたいと思っている。市販品のような家具調のピカピカ仕上げにはしたくないのだ。もちろん、そうしようと思っても、今の作業環境では無理なのだが。さて、どうなることやら。

というわけで、まずはエンクロージュア全体を黒く塗装する。正確には、塗装というより着色と言った方がいいかもしれない。つまり、水性ステインを木部に染み込ませてやるのだ。D-37ESの着色にはワシンの水性ステイン小瓶を6瓶ほど使用した。3回塗りでほぼ真っ黒に仕上がった。出だし好調。
出だし好調と思いきやすぐに問題発生。天板に貼付けてあった米松ツキ板が水性ステインの水分でたわみ始めたのだ。合成ゴムボンドでしっかりと接着したにも関わらずである。おー、なんという耐水性、耐久性のなさ。これでは使い物にならん。仕方なく、ツキ板を剥がし、ツキ板を貼り直すことにした。
こちらが貼り直すために用意した新しいツキ板。今度は柔らかめのウォールナットツキ板を使うことにした。ウォールナットツキ板は何度か使用したことがあるので、ある程度はコツが掴めている。木目が奇麗で、柔らかいので貼った場所に馴染みやすい。左写真では、ツキ板の裏面にスプレーノリを吹き付けている様子。右写真はツキ板を貼付け、余分な部分をカットしたところ。ふぅー、ようやくなんとかやり直しができた・・・と思ったのだが、この後、再度ツキ板を貼り直すことになる。それはまた後ほど。今回はこの天板の仕上げに散々苦労させられた。全ての板材をきっちり正確に張り合わせられていれば、天板部分の板のズレもなかっただろうに。そして、このようにツキ板で覆い隠すという作業もなくて済んだのに。
天板のウォールナットツキ板部分のみ、水性黒ステインを3回重ね塗りし、他の箇所と同じ色調に合わせる。次いで、つや出し塗装に入る。使ったのは右上の油性ニススプレーと油性ニス。油性ニスはトータルで5本くらい使った。刷毛塗り用の油性ニスは写真の要領のやつを計5本くらいは使っただろうか。ニスは刷毛塗りを基本とするが、刷毛で塗りにくいような奥まった場所などにはスプレータイプでニス塗りをすることにした。
第一回目のニス塗りが完了したところ。やや、艶がかってはいるが、まだまだだ。ここでさらに問題発生。この日は晴天。炎天下の野外作業でスピーカー表面は高温になっていた。この熱で天板のツキ板が膨張し、シワが出来始めたのだ。あまりにショックだったので、シワの状態を写真に撮り忘れた。シワを延ばそうと試みてもシワは消えない。接着補強にスプレーのりを使ったのが裏目に出たか。ゴム系ボンドを使っていればこんな事にはならなかったのかどうなのか。とにかくこれではダメだ。もう一度貼り直すしか無い。
左はツキ板を再度剥がしたところ。ツキ板はものにもよるが、0.3mmほどの薄い木のシート。屋内のきちんとした環境で作業できれば、ツキ板も実用性十分のはず。しかし、今回は2回の貼り直しに遭い、ツキ板はさすがに懲りた。こうなったら、シワになったりすることのない厚みのあるものを貼付けることにしよう。色々考えた挙げ句、シナ合板としては最薄の2mm厚シナ合板を貼付けることにした。右は2mm厚シナ合板を貼付けた状態。貼付けた合板と本体との継ぎ目にパテを盛る。
パテの乾燥後、サンドペーパーで余分なパテを削る。これでようやく天板も落ち着いてくれるかなぁ。塗装途中でこんな張り替え作業をしなきゃならんとは、ほんと苦難の連続なのだが、スピーカー工作ってこんなもんですわ。予想だにしないトラブル、ミスが多発する。事前に注意しておけば防げるミスも多いのだが、そう事は完璧には進まないものである。特に、D-37ESのようなパーツ点の多い複雑な構造のスピーカーならなおさらだ。
天板の修正をなんとかやり遂げ、本来の塗装作業の続きを再開。ニス塗りした表面をサンダーで研磨し、塗りムラを解消。再度、ニス塗りをして、乾燥後にサンダーで磨く。この作業を5回は繰り返したと思う。表面のニスの塗膜が十分に厚くなったのを見計らい、サンダー研磨の後に耐水ペーパーで水研ぎもおこなった。
この時点では2,000番の耐水ペーパーを用いている。適時、1,000番/1,500番/5,000番も用いる。番号が大きいほど目が細かくなっていく。ニス塗りも大変だが、この水研ぎ作業も実に大変である。モノがでかくて形状も複雑。磨き上げにはエンクロージュア1本あたり1時間半は掛かる。これを塗装→研磨→塗装→研磨→塗装・・・という風に何度も何度もおこなう。根気のいる作業だが、やらねば私の望むシックなつや出し仕上げにはならない。
水研ぎを終えて、きれいな水をぶっかけて研磨カスを洗い落としたところ。微妙な艶が出てきた。右はニス塗りで生じたムラを目立たなくするために用いたラッカースプレー黒色。つや出し黒色仕上げだから、こんな荒療治がおこなえるのだ。これが茶色などの微妙な色彩仕上げだと、ラッカースオウレーなどでごまかす事は出来ない。ラッカースプレーもあまり厚く吹き付け過ぎると、逆効果になるので、あくまで薄く吹き付けるのがコツ。ラッカースプレーは色々なメーカーから出ているのだが、同じ黒でも、作業感や仕上がりがずいぶんと違う。私がおすすめなのは、東急ハンズのハンズセレクト製ラッカースプレーだ。霧が細かく、塗装面でダレる事なく、発色が素直で、吹き付け箇所が均等に仕上がるからだ。価格は一缶700円くらいだったと思う。東急ハンズでしか売っていない。
これは5,000番の耐水ペーパー。東急ハンズなどで売られている。非常に目が細かいので、最終仕上げに用いる。価格は1枚500円程度と高値だが、仕上げでケチっても仕方ないので、モノは試しに購入。耐水ペーパーなので、目が詰まる事なく、かなり持ちは良い。塗装面を削り過ぎる事無く、半艶状態に仕上げる事が出来た。これは買って良かった。右は最終仕上げに用いた家具用ワックスとバフ。これらはユザワヤ吉祥寺店で購入。商品名は天然ワックス「木肌マモール」という。ベタなネーミングだ。今時珍しい固形のワックスで、品質は上々。一缶3,000円ほどと高価なのが玉に傷。
ホームセンターや東急ハンズなどでつや出し用の色々なワックスを調べた。安全性、作業性、耐久性、それに、仕上がり感が良さそうだという理由から、このワックスに決めた。木肌マモールは今時珍しい固形のワックスで、品質は上々。一缶3,000円ほどと高価なのが玉に傷。
ワックスを塗り込んだところ。ウエス(衣服の切れ端)にワックスを少量付け、丹念に塗り込んでいくのだ。数十分放置の後、乾いたウエスなどで磨き上げていく。そうすると、エンクロージュア表面が艶を増してくる。ニスだけでは得られない微妙な味わいの艶なのだ。
ニス塗り→ニス塗り→ニス塗り→空研ぎ→ニス塗り→空研ぎ→ニス塗り→水研ぎ→ニス塗り→水研ぎ→ニス塗り→水研ぎ→ラッカースプレーにてムラ修正→水研ぎ→ニス塗り→ラッカースプレーにてムラ修正→5,000番水研ぎ→ピカールで研磨→洗浄→ワックスがけ→ウエスで空研ぎ。だいたいこんな感じで作業を進めた。はぁ〜、気の遠くなるような行程だ。同じ事をもう一度やれと言われてもやりたくない。艶出し塗装は不慣れな故、思いつきの連続で試みた今回の作業行程。ここには書ききれない相当量の苦労があった。反省点は多くあり、特に艶のムラの解消には手こずったし、艶のムラや塗装の粗を完璧に消し去る事はできなかった。やはり、デカ物の艶あり塗装は大変だ。ま、完璧とはいかないまでも、おおむね良好な仕上がりとなったかな。ここまでくれば、後はユニットなどもろもろのパーツを取り付けるのみ。全作業工程の7合目くらいに到達した感じ。