オーディオみじんこ
D-37ES製作記
その5:完成と試聴

2005.9.13公開

幾多の難題を乗り越えて完成したD-37ES。いよいよ音出しの時が来た。長岡16cmバックロードの究極の形とも言えるD-37ES。FE168ESというロクハン最強ユニットを搭載したこのバックロードがいかなる音色を奏でるか、期待と不安が入り交じる瞬間でもある。

D-37ESの勇姿。外形寸法はH1,000 D450 W320。我が家の体重計には乗り切らない大きさなので、正確な重量は不明。推定では50kg/本くらいはあるのではないかと思われる。この写真では表面の光沢と粗がよく分ってもらえるだろう。表面の粗はわざとでもあり、仕方なくそうなったということでもある。この表面の粗は木目でもあり、ニス塗り時の刷毛の塗り後でもある。依頼者の方からの要望は「木目を残しながら光沢の黒仕上げ」だった。木目を透かさずに、完全黒艶仕上げにするのなら、これまた別の塗装方法もありえた。しかし、木目を活かしながら黒艶仕上げにするというのは、日曜大工ではなかなか難しい。
D-37ESの上部分のアップ。Pリングが美しく輝いている。Pリングはその音質面への好影響のみならず、高級感が増すと言うメリットもある。なんでも金色に輝いていれば良いと言うものでもないが、PリングはD-37ESの見栄えを確実に向上させている。
完成の翌日。いよいよリスニングルームに持ち込んでの試聴である。妻子が帰省中だったので、機器を床置きし、思う存分試聴できた。とは言っても、試聴自体はたった1日。翌日には依頼者の元へ発送することになっている。完成した以上は、一刻も早く依頼者の元へ届けてあげたいし、翌々日には妻子が戻ってくるので、それまでに事を片付けなければならないのだ。腹を痛めて生んだ子供とすぐに引き離される母親ような心境。
スピーカーターミナルへの配線接続状況。スピーカーケーブルにはS/ALABのHH3.5を使用。右はFE168ESユニットのアップ。このロクハンユニットからどんな音が飛び出てくるのか。それにしても、Pリングはイカしてるよなぁ。
ペアのスピーカーをそれぞれ撮影。スピーカーというのは基本的には2台ペアである。個々にばらつきが出てはいけないので、2台同時進行で製作することになり、製作上の負担も大きい。
ユニット周りを下から望む。
T925を載せてみた。うんうん、なかなかかっこいいではないか。ま、FE168ESには、できればFE168ESと同時発売されたT900Aを組み合わせた方が、音色的にはベストマッチらしいが。さて、肝心の試聴結果だが、これがもう、なんというか、期待以上の音をはじき出してくれたのだ!私の狭い6畳間では十分な試聴環境とは言えないのだが、それでもD-37ESの能力を十分に味わえた。短時間ではあるが、かなりの大音量でも鳴らしてみたが、ロクハンユニットからここまで凄みのある低音が出てくるとは。ここから先は、オーディオ聖地巡礼記の 2005.5.16 D-37ESついに完成!に掲載した文章を転用する。

「作った私が言うのもなんなのだが、予想通りの音の良さに感動!曲によっては、涙が出そうになるくらい体と心に響く。フルレンジユニットの点音源の良さがフルに味わえ、満足満足。定位がピシッと決まり、音場感も抜群。ボリューム9時方向で6畳ではこれ以上望む必要はないくらいの音量が出る。近所の人は工作の騒音と塗装の異臭がようやく止んだと思いきや、今度はスピーカーをガンガン鳴らされて、さぞ迷惑なことだっただろう。それはさておき、D-37ESは鳴らし初めは鈍い音がした。う、大丈夫か?と一瞬心配したのだが、どんなスピーカーでも最初から良い音が出るわけは無い。予想通り、鳴らし始めて暫くしたら熟れてきた。このスピード感ある音はバックロードならではだな。この音離れの良さも一般的な市販スピーカーでは得られないものだ。まだ少々鈍い部分もあるのだが、このユニットはエージングに半年掛かると思われるので心配御無用。鳴らし込んでいけば、欠点は解消され、ますます音質向上するはず。エージング間もなくで、ここまで鳴れば行く末が楽しみだ。・・・中略・・・ちなみに、私のメインスピーカーPA-2は面の圧力で押してくる感じで、PA-2ここにありきという歩合なのだが、D-37ESは音が点から放射状に放たれるため、目を瞑ればスピーカーの存在が消える感じ。」

ま、こんな感じである。

試聴が終わったら最後の作業、依頼者への発送をおこなわなければならない。私の手元に完成したD-37ESがいたのはたった1日半。できれば自分で使いたいなぁと言う気にもなったが、いかんいかん。首を長くして待っておられる依頼者Y氏の元へきちんとお送りしなければ。ただまぁ、でかい重量物なので、梱包作業も一苦労だ。梱包だけで3時間かかった。さらば我が子D-37ESよ!

-まとめ-

2005年3月15日に板材を発注。4月16日に板材が到着。翌日から製作を開始し、5月15日に完成。17日に発送し、依頼者の元へは5月19日に到着。製作開始から約1ヶ月で引き渡しができた。製作時間は平日は会社からの帰宅後の1〜3時間、休日は日中8〜12時間程度。帰宅時間や天候、家族サービスなどで作業をしなかった日もあったが、それでも製作実時間は累積70時間以上かかっていたはずだ。

今回製作したD-37ESは私のオリジナルスピーカーではなく、既存の設計図が存在する。自分で設計する必要がなかったし、板材カットはマキゾウさんにおまかせ。そんなわけで、製作前の下準備はとても楽だった。ただ、製作はかなり大変だった。製作期間は1ヶ月と、私にしては割合多く取れたので、作業自体はじっくり進められた。

今回の製作上でも、勉強になってことや反省点は多い。挙げれば説明が長くなるので割愛するが、バックロードの製作は、音道を如何に正確に組み上げるか、これが要点の一つだと感じた。圧着工具のハタガネはD-37クラスだと10本以上あったほうがよい。それと、艶あり塗装をメーカー並みに仕上げるには、刷毛塗りでは限界がある。できればスプレーガン+コンプレッサーがあった方がよい。今回の経験を糧に、私自身の新作スピーカーにも注力したいところである。

ご参考までに、このD-37ESに要した材料代を列挙してみよう。

品名
購入店
単価(\)
品数
金額(\)
板材代 マキゾウ
75,500
1
75,500
板材送料 マキゾウ
2,935
1
2,935
シナ共芯合板910×450×2t 東急ハンズ新宿店
1,312
1
1,312
シナ共芯合板カット 東急ハンズ新宿店
52
3
156
シナテープ30mm幅粘着式 東急ハンズ新宿店
178
10
1,780
シナテープ30mm幅アイロン式 東急ハンズ渋谷店
325
8
2,600
シナテープ15mm幅粘着式 東急ハンズ新宿店
126
4
504
米松ツキ板小シート 東急ハンズ渋谷店
472
1
472
タモ材丸棒φ7(ターミナル用穴修正用) 東急ハンズ渋谷店
73
1
73
ステンレス釘25mm ユザワヤ吉祥寺店
126
1
126
ステンレススクリュー釘25mm ユザワヤ吉祥寺店
105
4
420
ステンレス釘32mm 東急ハンズ渋谷店
120
1
120
ハタガネ450mm長 東急ハンズ渋谷店
1,365
3
4,567
グラスウール600×900 コイズミ無線
 735
1
735
シリコンボンドスーパーX 東急ハンズ新宿店
1,312
1
1,312
木工ボンド500ml ユザワヤ吉祥寺店
672
1
672
木工ボンド500ml(セメダイン) ユザワヤ吉祥寺店
504
1
504
電動サンダー用紙ヤスリ320番 東急ハンズ新宿店
651
1
651
電動サンダー用紙ヤスリ600番 東急ハンズ新宿店
651
1
651
耐水ペーパー320番 東急ハンズ新宿店
63
2
126
耐水ペーパー600番 東急ハンズ新宿店
63
3
189
耐水ペーパー1000番 東急ハンズ新宿店
63
2
126
耐水ペーパー2000番 東急ハンズ渋谷店
336
1
336
耐水ペーパー5000番 東急ハンズ新宿店
441
1
441
ランダムサンダー用交換紙ヤスリ ホームピック三鷹店
504
1
504
油性ニススプレー黒(ワシン) ホームピック三鷹店
1,029
1
1,029
油性ニススプレー黒(ワシン) ユザワヤ吉祥寺店
1,187
1
1,187
油性ニススプレー透明(ワシン) ユザワヤ吉祥寺店
1,187
 2
2,374
ペイント薄め液500ml ユザワヤ吉祥寺店
315
1
315
油性ニス透明(ワシン) ユザワヤ吉祥寺店
977
2
1,954
油性ニス黒(ワシン) ホームピック三鷹店
819
1
819
水性ステイン(ワシン) 東急ハンズ新宿店
451
6
2,706
ラッカースプレー黒 ホームピック三鷹店
819
1
819
ラッカースプレー艶消し黒 東急ハンズ新宿店
609
1
609
家具用ワックス(木肌マモール) ユザワヤ吉祥寺店
3,308
1
3,308
電動サンダー用バフ ホームピック三鷹店
609
1
609
電動サンダー用布バフ SEIYU吉祥寺店
399
1
399
ニス塗り刷毛 ユザワヤ吉祥寺店
578
1
578
FE168ES中古(FOSTEX) 依頼者が入手
25,500
2
51,000
PリングP168(FOSTEX) キムラ無線
16,065
2
32,130
ホワイトキューオンESW-10-303 コイズミ無線
472
2
944
キンバーケーブル4TC(中古) オーディオユニオンお茶の水
1,970
2
2,940
ファストン端子TL12-250L(8個入り) コイズミ無線
714
1
714
-
-
-
201,246

依頼者からは元々15〜20万程度での製作を依頼されており、ほぼ予算通りとなった。D-37ESクラスのスピーカーだと予算20万円は妥当な金額だ。塗装などの仕上げ行程を省いても15万円はかかる。20万クラスの市販スピーカーで、このD-37ESと肩を並べられる魅力を有しているものは少ないと私は思う。

「自作スピーカー=安上がりでなければならない」と考える方もいらっしゃると思うが、それはそれ。突き詰めていけば、それ相応の制作費がかかるものだ。自分の納得のいくまで金と労力を注ぎ込めるのも、自作スピーカーの醍醐味である。

木工工作には塗装臭や工作時の騒音がつきものだ。防音防臭設備の整った屋内作業場があればと思った次第。それと、休日の大半をスピーカー工作に費やした。家族はよく耐えてくれた。

最後に、D-37ESの製作を依頼してくださったY氏に心から御礼申し上げます。