オーディオみじんこ
わが愛しのオーディオアクセサリー
スタビライザー

2004.9.9新規!

オーディオで言うところのスタビライザーとは、オーディオ機器の天板に載せて音質向上を図るスタビライザーと、レコード盤の振動や反りを抑えるレコードスタビライザーの2パターンに用いられる。ここでは、天板に載せるスタビライザーをご紹介。レコードスタビライザーはこちらでご紹介しています。
鉛インゴット:TGメタル FJ-02
定価:\2,000/本 実売:\1,600/本 製造:田代合金所 入手先:ヨドバシカメラ新宿マルチメディア館
 言わずと知れたTGメタルである。TGメタルは田代合金所が製造販売するオーディオ用鉛のブランドであり、防振効果を狙った鉛製インシュレーターを多数製品化している。TGメタルはオーディオ用スタビライザーとしては古典的。永きに渡り愛用されてきた製品で、故長岡先生が自身のオーディオシステムに多用されていたことでも有名。むしろ、長岡先生がいなければ、TGメタルはオーディオマニアの定番アクセサリーになりえなかったかもしれない。TGメタルなどの鉛インゴットの魅力は顕著な防振効果もさることながら、その価格の安さにある。非常識的な高額でまかり通るようになってしまったオーディオアクセサリーの中で、TGメタルは値上げもせずに安定した供給がなされている。

 鉛は比重11弱と非常に密度の高い元素であり、放射線の遮断効果に優れているのは広く知られていることである。鉛はその密度ゆえ、顕著な振動減衰効果も得られる。また、金属としてはとても柔らかいため、加工もしやすいなどのメリットがある。シート状の鉛ならハサミで自在にカットできる。鉛シートは薄くて顕著な防音効果が得られるので、防音シートと称し長大なシートも製品化されている。防音シートは厚み0.3mmで幅90cmの長さ10mといったものが多く、これをオーディオルームの壁面に貼り付けて使用する。その他の鉛の特徴としては、融点が低いのでバーナーなどで溶かすことも可能ということ。自分で好きな形の型を作り、そこに溶かした鉛を注ぎ込めば、オリジナルのインシュレーターを製作できる。私は溶かした鉛でスーパーツィーター用の置き台を作ったことがある。

 TGメタルの欠点と言えば、見た目の悪さかもしれない。鈍い銀色をしているので、見た目の高級感は皆無。また、オーディオマニアの間では「鉛を防振に使うと鉛臭さが音に乗る」と鉛を忌み嫌う人も多い。しかしながら、鉛の防振効果は明らかであり、鉛を全面否定するのはどうかとも思う。要は、適材適所に適量を使えば、これほどハイCPな防振材はないのである。鉛といえば、人体への毒性が指摘されていることも懸念される。とはいっても、常温で鉛が気化することは無く、舐めたり食べたりしない限り、人体に取り込まれることは無い。あえていうなら、TGメタルを触った時には、よく手を洗うようにすればよい。念を入れるなら、鉛自体にラッカースプレーで着色してやれば良い。塗膜により、鉛が手に付着することも無くなるし、多少なりとも見た目が改善される。ラッカーは素材への喰いつきが良く、鉛自体もラッカーを弾くようなこともないので、プライマー無しで直接塗布できる。私も現用のTGメタルに艶消し黒スプレーを吹き付けている。ただし、スプレーする時には、事前にTGメタルを洗剤で洗い、よく乾かしてからスプレーすること。写真はFJ-02を中性洗剤で洗っているところ。

鉛というのは製造面から言うと一定の形状に製品化しにくい素材らしい。田代合金所では、その難点をゴムの型を用いて克服しているのだが、それでも型に流し込んだ後の冷却時における収縮や歪みが発生する。だから、均一な寸法に揃えたり、完全な平面を得るには、鋳物として抜いた後の鉛を切削して修正する必要がある。TGメタルの中で、切削修正されているのはここに紹介するFJ-02だけ。FJ-02は切削加工の手間分、価格もやや高めとなっており、実売¥1,600/本程度する。FG-02などの鋳型から抜いただけの鉛棒とは倍の価格設定だ。FJ-02の寸法は10×300×50と均一。平面性が良好なので、オーディオ機器の天板に載せた場合、ぐらつきが出にくい。厳密に言うと、FJ-02においても平面性に若干の歪みがある個体がある。私も4本購入したうち、1本はわずかに曲がっていた。FJ-02は製造段階で完全な平面が得られていても、その後になんらかの力や衝撃が加わると鉛は簡単に曲がってしまう。例えば、FJ-02を壁に立て掛けたりすると、それだけで曲がる。誤って落としてしまえば、明らかに曲がるだろう。ただ、歪んでしまったからと言って、あきらめる必要は無い。完全な平面状の板などにFJ-02を置いて、手で押してやれば修正できる。FJ-02を扱う場合の注意点は、とにかく乱暴に扱わないことだ。使わずに保管する場合も、何かに包んだ上で、水平に保管すること。弱い力でも持続的に加わると歪んでくる。手が滑ってFJ-02を足の甲などに落としてしまったら、FJ-02が曲がるだけでは済まず、大怪我をすること請け合いである。比重が高いので、衝突時のエネルギーも大きいのだ。

 さて、随分と長くなってしまったが、ここからはFJ-02の購入経緯についてお話しよう。私は昔からFJ-02が欲しかったのだが、購入を先延ばしにしていた。というのも、FJ-02は定番アクセサリーなので市場から消えることは無いという安心感と、重くて持って帰るのが面倒くさいという理由があったのだ。しかしながら、2004年春にバージョンアップしたVRDS-25XSをより良く使うために、セッティングをやり直すことになったのだ。その際、インシュレーターはAETのスパイクを、ボードにはオーディオムカイの黒御影石をあてがうことで落ち着いた。足元を煮詰めたならば、天板の防振も徹底したいと思うのは、オーディオマニアの性である。そういうわけで、最初はレクストのRS-とかいうタイル状の焼き物を載せてみたのだが、残念ながら私には何の変化も感じられなかった。だからといって、この焼き物が何の効果が無いとも言い切れないし、実際にこれを使って良かったという話も多数見受けられる。さて、VRDS-25XSは構造ががっちりしているので、変化を出すにはもっと重いものを載せた方がいいのかも知れない、と考えた。私は手持ちでTGメタルの大板FR-2(320×360×8mm重量10kg)を2枚所有しているが、使わずに保管していたので、これを活用できないかとも考えた。しかしながら、VRDS-25XSの天板は完全な面一ではないので、大きな板状のインシュレーターは安定して設置できない。同機の天板は3分割構造になっており、3枚の天板を固定するための2本の梁が段差になっているのだ。よって、3分割された天板にそれぞれ1本で、計3本の棒状インシュレーターを置くのが適当だろう。棒状のインシュレーターで思い浮かぶのはTGメタルのFJ-02と、アコリバの多用途インシュレーターMB-2だ。MB-2はクロロプレンゴムと真鍮とアルミ合金のハイブリッドらしいので、それ相応に効果があるのだろう。大きさも350×50×19とちょうど良い大きさだ。それに艶消し黒の焼き付け塗装も綺麗に仕上がっており、見えるところに設置してもシステムの外見を損ねることは無い。ただ、MB-2は2本セット販売され、実売で2万円ほどする。3本必要なら、2セット購入しなければならないし、そうなったら4万円も出費しなくちゃならん。ここまでお金を掛けたくは無い。そんなわけで、MB-2はあっさりとあきらめ、予てから使ってみたかったFJ-02を購入することにした。購入はヨドバシカメラ新宿マルチメディア館オーディオフロア。値段は秋葉原での販売価格と同じ¥1,600/本なのだが、ヨドバシで購入するとポイント還元がついてくる。1本あたりの重さが2.5kgあるFJ-02を3本買ったので、計7.5kg。カバンが重みで変形しつつも、なんとか担いで持って帰った。TGメタルの大型プレートFR-2をオーディオ店から担いで帰った時もそうだったが、見た目が小さいのに異常に重いものを運ぶのは、大きくて重いものを運ぶより重く感じる。

購入後、私はFJ-02に黒スプレーを吹き付けてやった。上の写真はスプレー後のFJ-02である。右の写真はブチルゴムを貼付けた面。これは前述に紹介した理由からだが、VRDS-25XSの天板に載せても鉛板が目立たないようにするためだ。さらに、FJ-02が機器の天板に接触する面に東急ハンズで購入した片面粘着式ブチルゴムシートを貼り付けてやった。これは、ひとえに機器の天板に傷を付けないための保護シート的な意味合いである。だから、コルクシートやフェルトなどでも構わないだろう。保護シートを貼らない素のままの鉛板を機器の天板に載せたままで、位置整をするために動かしたりすると天板に醜い傷が付いてしまう。これをお読みの方でも同様の失敗をした人はいらっしゃるのではないかと思うが、私自身も鉛板で機器の天板に傷を付けてしまったことが幾度かあった。傷つけるのは容易だが、相手を傷つかせないようにするには相応の注意が必要なのだ。

実際の使用感はというと、未使用の状態に比べ低域の押しが強くなったような感じを受けた。良い方向での変化である。無音状態からの音の立ち上がり時に、レスポンスが速くなったというべきか。やはり、余分な振動が多少なりとも抑え込まれているのだろう。変化の程はわずかだから、ある程度音量を上げないと変化の度合いは分かりにくいのだが、やはり鉛による重量付加は一定の効果が得られると思われる。前置きが長い割に、使用レポートが簡単で申し訳ないが、そんなところである。5千円程度の投資で、この効果ならまあまあ納得といったところ。相次いで発売されるオーディオアクセサリー業界において、存在がやや薄れてきた感じのするTGメタル。しかしながら、TGメタルはTAOCのグラデーション鋳鉄インシュレーターとともに普遍のブランドとして今後も存在し続けることだろう。

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