オーディオみじんこ
D-37ES製作記
その4:ユニット取り付け

2005.9.13公開

重量物、パーツ点数の多さ、構造の複雑さ、天災、人為的ミス、その修正作業・・・。これら難題を克服しつつ、ようやく完成したD-37ESエンクロージュア(スピーカーボックス)。さて、ここからは難しいことは一つもない。ひょひょいのひょいとユニット類を取り付けるだけだ。完成まで突っ走るぜ!

依頼者の方から「配線に至るまで、みじんこさんが良いと思うものを選んで徹底的にこだわってほしい」とのお達しをいただいていた。よって、私自身が試したかった幾つかのスピーカーケーブルや配線材を候補に挙げてみた。具体的には、オーグライン、キンバーケーブル4TC、カルダスクロスである。この中で、“ブレイド構造”という独自の編み構造を有するキンバーケーブル4TCを選ぶ事にした。4TCはノンシールドでいながら、ブレイド構造によってノイズキャンセルを実現している。このケーブルは兼ねてより興味があったケーブルで、雑誌上やマニア達の評価も上々のようだ。触ってみると、単線に近い硬さを有している。テフロン絶縁材の特性もあってか、物理的振動の減衰が早い。音波と振動が充満するエンクロージュア内部の配線材として適していそうだ。テレオンの方に4TCを内部配線に使うのはどうかと相談したところ、JBLの内部配線を全てこれに換えたマニアもいるとの事。4TCは+ーそれぞれ4本の芯線を有している。つまり、端末には8本の芯線が存在する事になる。その全ての芯線の端末絶縁材を剥くとなると大変そうに思うが、実際は簡単だった。カッターで軽くスジを入れてやってから、手で引っ張れば、絶縁材はすっぽり奇麗に抜き取れる。ディーバス14-4CTもそうだが、テフロン絶縁材は意外と取り除きやすいのだ。
今回使用するスピーカーターミナルは種々検討の結果、ヤフーオークションで購入。これはヤフオクIDcp002007さんが出品しておられる大型スピーカーターミナル PT02B4個セット5H34というもの。希望価格は3,500円。全長65mmとかなり長めのターミナルで、板厚貫通部分が長いのがありがたい。スピーカーターミナルは数あれど、分厚い板厚を打ち抜けるターミナルは数えるほどしか無いのだ。もっとも、今回はD-37ESの天板15mm厚を貫通出来ればいいので、ターミナルの選択肢は比較的多い。秋葉原で入手可能なスピーカーターミナルで15mm厚を貫通出来る良質なものとなると、フォステクス、トリテック、小沼電気の取り扱い品、WBTくらいである。WBTは高額すぎるので除外。小沼の製品は私的には使い飽きた。フォステクス、トリテックは品質は申し分ないが、バナナプラグやスペードラグに未対応だったりするし、両対応のものは作りがいまいち。依頼者の方のことを考えると、あらゆるタイプのスピーカー端末に対応でき、なおかつ高い品質と、見栄えの良さを兼ね備えたものにしたい。これらの要件を全て満たすターミナルを検討した末に、このターミナルを使う事に決めたのだ。実はこのターミナル、このスピーカー製作依頼を受ける前から、すでに私の次期自作スピーカー用にとヤフオク購入していたのである。ま、この大型ターミナルは出品者さんが時折出品されているので、自分用に必要になった時には、また改めてヤフオク購入することにしよう。
この大型ターミナル、使うのがもったいないくらいに作りがいいですぞ。KingCobra U.S.Aとあるので、米国産ということだけは分るが、詳細なブランド名は不明。素材の詳細は不明だが、真鍮の金メッキがけと思われる。ケーブル固定クランプは左写真をご覧の通り、透明樹脂で覆われており、プラスマイナス配線の接触事故の危険性が少なくなる。内部配線はハンダ付けする。ターミナルの先端に開いた穴に内部配線を突っ込み、ハンダ付けするのだ。個人的には、ターミナルへの内部配線取り付けは、ハンダ付けに限ると思っている。ネジ止めだと、経年によりネジが緩んで配線が外れてしまうこともありえるからだ。スピーカーは振動を発する装置だけに、他の機器に比べてもネジの緩みが生じやすいのである。
この大型ターミナルが優れているところは、24mm厚までの板厚を貫通出来るところにもあるだが、もう一点、スピーカーケーブルの固定クランプの構造にある。固定クランプは一般的なネジ止め方式なのだが、このクランプがそっくり取り外せるのだ。WBTもしかりだが、固定クランプが外せない構造になっているターミナルは意外と多い。ターミナルは経年で汚れてくる。その際、クランプが外せるとターミナル清掃時に掃除がやりやすいのである。また、固定クランプには右写真の通り、ギザギザの切れ込みが入っており、スペードラグの固定が強固におこなえる。この機構は意外と貴重。市販されているスピーカーターミナルの固定クランプは通常、この接触面が平らで、スペードラグの固定強度が弱い。配線接続時にきちんと締め上げたつもりでも、時間が経つと緩んでくるのである。その点、このターミナルのように接触面にギザギザの切れ込み加工がなされていると、スペードラグに食い付くように固定出来き、経年による緩みも生じにくい。実際、裸線、バナナ、スペードラグでの固定状態を確認してみたが、いままで私が使ったどのターミナルよりも強力に固定する事ができた。このターミナルの優れたところはもう一点あり、バナナプラグの差し込み穴が、ターミナル本体側の軸に開けられていることだ。バナナ対応のターミナルの多くは、差し込み穴が固定クランプ側に開いている。この場合、音声信号は固定クランプとターミナル本体との接触面を通過する事になり、音質劣化が懸念される。ところがこのターミナルの場合、固定クランプを介さずに本体の軸に直接バナナプラグが差し込まれるため、余計な接点が排除されるのである。このように、細部に様々な配慮がなされたターミナル、これにクライオ処理でもしてやれば、けっこう最強なのではないかなと思ったりもする。素材を純銅にしてやればさらに良いかもしれないが、なんでも純銅にすればいいものではない。こういったターミナルやプラグ関係と言うのは、ある程度の堅さが必要であり、その点で真鍮が多用されているのだ。柔らかい銅を使用すると、強度的、ひいては音質的にも、悪くなることもあり得る。もっとも、これら端末パーツの素材、さらにはメッキ手法などについても諸説うんぬんあるので、ひとくるめに結論しうる事はできないのだが。
ちなみに、このターミナルのスペードラグ挿入軸部分は、最薄部で4.5mm厚、最厚部で7.8mm径ある。つまり6mm幅/8mm幅の両規格のスペードラグに対応可能。
配線はおおむねこんな感じ。スピーカーターミナル(バインディングポスト)とはまだハンダ付けしない。ハンダ付けは最後の最後におこなう。
こちらはFE168ESのターミナル。真鍮製と思われる。ここに4TCを直づけしてもいいのだが、4TCはしなりのあるケーブルなので、配線の状態によってはハンダ接合部に負荷がかかり、下手をすると外れてしまうかもしれない。そこで、耐久性と確実な接合を得るために、スピーカーターミナル用のスリーブを使う事にした。これはキムラ無線やコイズミ無線で売られているユニットターミナル用圧着スリーブだ。真鍮に金メッキ。たぶん、トリテックのものだったと思う。ケーブル差し込み部分の口径はφ4.5で、5.5スケア導体まで差し込めるようになっている。
これがD-37ESのキモになるFE168ES。2001年に限定600本発売されたロクハン最強ユニットだ。ランタンコバルトマグネットという強力マグネットを2枚重ねにしている。複雑な3次元形状をしたHPコーン、波状のスリットを取り入れたUDRタンジェンシャルエッジなど、フォステクスの持てる技術力をことごとくぶち込んだユニットとなっている。価格は定価29,800円/本で、ほぼ値引き無しの実勢価格だったように記憶している。組み立ては台湾でおこなわれていた。余談だが、フォステクスの工場は昨年、中国に移転した。アルニコユニットなど、組み立てに技術力を有するユニット以外は、ほとんど中国で組み立てられているらしい。
FE168ESを正面から望む。UDRタンジェンシャルエッジの特殊形状がよく分る。なお、真正面から見る限り、この限定ユニットFE168ESと現行ユニットFE168EΣは全く同じ形状をしている。FE168ESとユニットFE168EΣを見分けるには、マグネットが2枚重ねであるか否かを調べるしか無い。右はFE168ESを横から眺めたところ。鋳物成形の強靭なフレームを有していることが見て取れる。
こちらはフォステクスロクハンユニット専用に発売されているP168。俗にPリングと言われているもの。ユニットとエンクロージュアの間にPリングを挿み込むことで、ユニットの固定が安定し、音質が向上する。素材は砲金で、その物性も音質向上に寄与しているものと思われる。厚みは最上部で 、ユニット取り付け面とエンクロージュア接触面の間で ある。P168はFE168ES/FE168EΣ/FW168Nに適合する。FE164/FE167/FE166Eなどはフレームの形状とネジ穴の位置が合わないため、Pリングを利用する事は出来ない。具体的な取り付け方法は、まず、Pリングをエンクロージュアにネジ止めし、次いでユニットをPリングにネジ止めする。だから、Pリングにはエンクロージュア結合用の穴8箇所と、ユニット結合用のネジ穴8箇所、つまり計16箇所のネジ穴が開いている。ちなみに、取り付けネジはM5サイズのものが8本付属している。価格は 円/枚。素材代と加工代を考えると、このくらいの値付けになるのは仕方ない。
こちらはバックキャビティ(ユニット取り付け箇所付近のエンクロージュア内部空間)に貼付ける吸音材。吸音材にも色々あるので、どれを使うか迷うところだが、今回はホワイトキューオンという吸音材を用いた。ホワイトキューオンは防音材の老舗、東京防音の発売する吸音材で、ペットボトルを原料にしたポリエステル繊維を板状に成形したもの。つまりはペットボトルを再利用したリサイクル材。同じポリエステル繊維の吸音材としてはダイニーマ繊維、オーディオ製品でいうところのミスティックホワイトがある。同じ化学成分から作られているホワイトキューオンとミスティックホワイトだが、価格と素材の質感、吸音効果などにはずいぶんと違いがあるようだ。ミスティックホワイトは興味深い吸音材だが、価格が高いので、なかなか手がだしにくい。一方、ホワイトキューオンは安価。ミスティックホワイトは強靭な繊維なので切断が容易ではないと聞くが、ホワイトキューオンはカッターや普通のハサミでサクサクと簡単に切断出来る。
バックキャビティに合成ゴムボンドを塗り、ホワイトキューオンを貼付ける。長岡先生の設計通りに、バックキャビティの縦面と底面の2面のみに貼付けた。今回、ホワイトキューオンを用いたのには、フワフワと毛羽立たない吸音材を使いたかったからだ。堅く成形された板状の吸音材のため、作業性は良好。ふわふわしている吸音材だと配線の邪魔になったりするが、ホワイトキューオンは繊維がばらける事が無いため、配線の邪魔になる事も無い。
内部配線をエンクロージュアに通した上で、スピーカーターミナルをハンダ付けする。ハンダ付けが終わったら、スピーカーターミナルの固定用ナットを内部配線の反対側から通し、六角レンチでターミナルをエンクロージュア内側から締め付けて固定する。天板の裏側にあたる、音道部分にターミナルが飛び出ている格好になるわけだが、音道自体が狭いためナットを回すのにとても苦労した。なお、ターミナルは天板の奥行き方向の真ん中からやや前側に取り付けてある。正確には、天板前辺から20cm奥に取り付けてある。板の貫通裏面からナットで締め付けるタイプのターミナルを用いる場合、これ以上、天板の後ろ側に取り付けるのは不可能だ。裏側からのナット締め付け作業時に、音道の狭さから、中程から先には手が入らないからだ。逆に、あまり手前に取り付け過ぎると、今度はスーパーツイーターを天板上部に搭載する際に、ターミナルが邪魔になる。

もっとも、D-37ESを塗装無しで仕上げる場合は、エンクロージュア組み立て時にあらかじめターミナルを取り付けておけばいいので、任意の位置に取り付け可能だ。また、外側からネジ止め固定するタイプのターミナルも、配線さえユニット取り付け穴まで引き出せるのであれば、どこに取り付けても構わない。

エンクロージュアにPリングを取り付ける。Pリングとエンクロージュアの接合には右写真中の長い方のネジを用いる。このネジは爪付きナットとセットで、マキゾウさんから購入したもの。エンクロージュアに埋め込んだ爪付きナットのおかげで、Pリングとエンクロージュアを極めて強固に固定する事が出来きた。これは作業したものだけが感じる感想なのだが、爪付きナットはいいですぞ〜。ま、爪付きナット自体は別に珍しいものでもなく、ホームセンターやコイズミ無線で容易に入手出来る。爪付きナット+ミリネジによるユニットネジ止め固定には様々な発展が考えられる。例えば、M5のセイシンネジなんかを使う事も出来るわけだ。お金は掛かるけど。M5のチタンネジなんかが入手出来れば、音質面にかなり好影響を与えそうだが、M5のチタンネジってあるのだろうか。短い方のネジはPリングに付属していたもので、これはPリングとFE168ESとの結合に用いる。FE168ESに付属の木ネジは使わない。
ターミナルの取り付けを終えたら、お次はユニットと内部配線ケーブルをハンダ付けする。接合には前述のように、ターミナル用スリーブを用いている。また、ハンダ付けした周辺は酸化防止のためにチタンオーディオオイルを塗り、さらに保護チューブを被せている。配線が終了したら、ユニットをPリングにネジ止めしてやる。これで制作作業は全て完了!!!!!あーーー、やったぁ。悪戦苦闘の1ヶ月間。やっと完成したぞ〜。さぁ、お次はいよいよ音出しだ!